2017年 03月 17日
―34ー U・F・O
俺は、宇宙船の中にいた。でも、そこに宇宙人の姿はない。ただ意識でコンタクトはとれた。いわゆるテレパシーだ。
(俺をどうする気だ?)
(覚えていないか? お前がここへ来るのは二度目だ)
そう言われて思い出した。幼い頃、たしかに、俺は不思議な体験をした。それを学校で話したら、みんなに嘘つきだと責められた。俺はそれ以来、そのことは夢だったと思うことにした。
(思い出したよ、あれはやっぱり本当に起きたことだったんだ……)
(そうだ、無事に育ったお前に会えて、本当にうれしい)
(俺に何をしたんだ?)
(何もしやしない、見守っていただけだ。)
(どうしてだ? なぜ俺を?)
(お前が、我々の希望だからだ)
(ますますわからない。わかるように説明してくれ)
しばらく間をおいて、再びテレパシーが飛んできた。
(お前は優秀だろう?)
たしかに、俺は子どもの頃から成績がずば抜けていた。今も大学院で研究を続けている。
(そして、争い事は嫌いだろう?)
たしかに、俺は気に入らないことがあっても、ケンカをしたことがない。
(それから、自然を何より愛しているだろう?)
たしかに、毎週のように、森林浴をし、海へ山へと出かけている。
(それがどうしたというのだ?)
その後、発せられた言葉に、俺は愕然とした。
(お前は、純粋な地球人ではない。われわれとの混血だ)
俺は言葉を失った。
俺には立派な両親がいる。兄弟だっている。本当だとすれば、どこでどうなったというのだ?
(そんなこと俄かには信じられない)
(無理もない、でも、お前は自分でも人と違うことに気づいているはずだ)
そう言われると、頭をよぎることがあった。
子どもの頃から学校で教えられることが易し過ぎて、周りに合わせるのに苦労してきた。周囲との調和を心掛け、いまだに、研究室でも教授を超えないように気をつけている。
また、古くから戦をする人たちの気持ちが理解できなかった。なおかつ、それを恥ずかしげもなく堂々と後世に伝える「歴史」なるものに、強い違和感を感じ、歴史の授業は苦痛だった。
そして、極めつけは自然破壊だ。宅地を造成するために山を切り開くなんて正気の沙汰とは思えない。自然あってこその人々の暮らしではないのか!
(われわれの星は、寿命を終えて今はもうない。そして、新しい星を目指し長い旅を続けている。だが、争いを好まないわれわれに、侵略という選択肢はない。だから、われわれが住める星で、生物が途絶えようとしている星を探しているのだ)
(まさか! それがこの地球だと言うのか?!)
(そうだ、地球人たちは、争いを好み、ゆくゆくは自らの手で破滅を招く。技術革新の名のもとに自然環境を破壊していることも、それに拍車をかけている。
だが、地球人たちは、地球が悲鳴を上げていることに気づこうとしない。手遅れになる前に、われわれがこの地に根付き、ともに共存しながら、地球も救うのだ)
(それと俺がどう関係があるというのだ?)
(お前は、われわれと地球人が一体化できるかの試金石なのだ。
地球時間で二十五年前、お前の母親に気づかれないよう、母親の卵子にわれわれの遺伝子を入れた。そして、お前が本当にその遺伝子を引き継いだかを確かめるために、以前、幼いお前をここに呼んだ)
(それで結果は?)
(お前はちゃんと、われわれの遺伝子を受け継いでくれていた。そして、後は健康に育つのを待っていたのだ)
(実験成功というわけか……)
(お前のおかげで、われわれの長年の夢が現実となる日が来た。これから、本格的に地球移住計画を遂行することになる)
(いったいどうする気だ?)
(われわれの遺伝子を運ぶ蚊を、地球全土に放つ。その蚊に刺された地球上の女性たちの卵子は我々のものとすり替えられる。そして、今後生まれてくる子どもたちは、お前のように優秀で、争いを好まぬ、自然主義者だ。こうして、われわれは遺伝子を残すことができ、地球も救われる。そして、わずかではあるが地球人の遺伝子も受け継がれていくのだ……)
俺は、洗脳されているのだろうか? しだいに、それがいいことのように思えてきた。
翌日、ベッドの上で目覚めた俺は、昨日のことは現実だったのか、それとも、単なる長い夢だったのか区別がつかなかった。
ただわかっているのは、その結果が判明するのは、百年、二百年先だということだけだった。