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〔短〕ユニフォームの王子さま(二)


 足元に転がってきたボールを取りに来たひとりの部員を見て、私の目は再び輝きを取り戻した。私がずっと待っていた白馬の王子さまが、忽然と目の前に現れたからだ! その瞬間、お尻を掻いている王子さまは私の頭から永遠に消えた。

 ユニフォームには、「竜崎」と書かれている。なんと素敵なお名前…… その時の私の瞳は、あたかも少女漫画のそれのように、星がキラキラといくつも輝いていたに違いない。そして同じく、そのユニフォーム姿の王子さまの周囲も、まばゆい光を放つ描写が強調されていたはずだ。

 だが、残念なことが判明した。王子さまは三年生だった。夏までしかあのお姿は見られない。その貴重な時間を惜しみ、私は学校での練習はもちろん、大会が始まると毎試合、球場に足を運んだ。負ければ引退―― 私は毎回、花束を持参することも忘れなかった。

 

 そして、とうとう準々決勝で、その時がやってきてしまった。私は、王子さまの最後の雄姿に号泣し、試合後、選手たちが着替えて出てくるのを出待ちした。そして愛しの王子さまが出てくると、私はすかさず駆け寄り、

「お疲れ様でした」

と、花束を差し出した。

 一瞬驚いた表情を見せた王子さまだが、私に優しく微笑みかけ、花束を受け取ってくれた。その後ろ姿をうっとりと見送っている私に、誰かが声をかけてきた。

「俺のは?」

 振り返ると、同じクラスで野球部員の健太だった。

「あるわけないでしょ!」

「そっか、俺のは二年後だな」

「ばっかじゃないの!」

「いいこと教えてやろうか? 竜崎先輩、マネージャーとラブラブなんだぜ」

(ばか! そんなこと、知りたくなかった……)

 私は、顔を真っ赤にして健太を追いかけ回した。

 

 

 

 二年後――

 私はまた、あの時と同じ場所にいた。なぜだろう、何となく来てしまった。そして、健太が出てきた。

「よ、花束待ってたぜ」

「残念でした~ ご覧の通りありませ~ん」

 私は、空の両手を振って見せた。そうだ、私はこれがしたくてここに来たのだ。

「じゃ、なんでここにいるんだよ?」

 そうそう、こいつのそのがっかりする顔が見たかったからだ。

「ま、いいけど、俺にはマネージャーがいるから」

「え?」

「焦った?」

「んなわけないじゃん!」

「うっそぴょ~ん」

「あ! もしかして、二年前も!」

「ピンポーン、竜崎先輩のこともうっそだよ~」

 私の怒りが頂点に達したのは言うまでもない。

 そして、私たちの鬼ごっこはいつまでも続くのだった。




by mirror-lake | 2017-07-21 09:30 | 【短】ユニフォームの王子さま

ささやかな楽しみで書いている物語。   誰かの心に染みてくれることを願って……

by 鏡湖