2017年 07月 21日
〔短〕ユニフォームの王子さま(二)
足元に転がってきたボールを取りに来たひとりの部員を見て、私の目は再び輝きを取り戻した。私がずっと待っていた白馬の王子さまが、忽然と目の前に現れたからだ! その瞬間、お尻を掻いている王子さまは私の頭から永遠に消えた。
ユニフォームには、「竜崎」と書かれている。なんと素敵なお名前…… その時の私の瞳は、あたかも少女漫画のそれのように、星がキラキラといくつも輝いていたに違いない。そして同じく、そのユニフォーム姿の王子さまの周囲も、まばゆい光を放つ描写が強調されていたはずだ。
だが、残念なことが判明した。王子さまは三年生だった。夏までしかあのお姿は見られない。その貴重な時間を惜しみ、私は学校での練習はもちろん、大会が始まると毎試合、球場に足を運んだ。負ければ引退―― 私は毎回、花束を持参することも忘れなかった。
そして、とうとう準々決勝で、その時がやってきてしまった。私は、王子さまの最後の雄姿に号泣し、試合後、選手たちが着替えて出てくるのを出待ちした。そして愛しの王子さまが出てくると、私はすかさず駆け寄り、
「お疲れ様でした」
と、花束を差し出した。
一瞬驚いた表情を見せた王子さまだが、私に優しく微笑みかけ、花束を受け取ってくれた。その後ろ姿をうっとりと見送っている私に、誰かが声をかけてきた。
「俺のは?」
振り返ると、同じクラスで野球部員の健太だった。
「あるわけないでしょ!」
「そっか、俺のは二年後だな」
「ばっかじゃないの!」
「いいこと教えてやろうか? 竜崎先輩、マネージャーとラブラブなんだぜ」
(ばか! そんなこと、知りたくなかった……)
私は、顔を真っ赤にして健太を追いかけ回した。
二年後――
私はまた、あの時と同じ場所にいた。なぜだろう、何となく来てしまった。そして、健太が出てきた。
「よ、花束待ってたぜ」
「残念でした~ ご覧の通りありませ~ん」
私は、空の両手を振って見せた。そうだ、私はこれがしたくてここに来たのだ。
「じゃ、なんでここにいるんだよ?」
そうそう、こいつのそのがっかりする顔が見たかったからだ。
「ま、いいけど、俺にはマネージャーがいるから」
「え?」
「焦った?」
「んなわけないじゃん!」
「うっそぴょ~ん」
「あ! もしかして、二年前も!」
「ピンポーン、竜崎先輩のこともうっそだよ~」
私の怒りが頂点に達したのは言うまでもない。
そして、私たちの鬼ごっこはいつまでも続くのだった。