2018年 09月 03日
天国に咲く花 <桃と天国の花>(七)
さらに五年の月日が流れた。
村に残る家は、とうとう桃の家だけになってしまった。雄一と冴子も心配して、度々家族会議が開かれた。
「おばあさんから後を継いだと言っても、周りの状況がこうも変わってしまっては、このままというのはもう無理じゃない?」
冴子が言った。
「そうは言ってもなあ、私たちはあの花のおかげでこうして幸せになれたわけだし」
雄一が言った。
「じゃ、いっそ、その花にどうしていいか聞いてみたらどうかな」
潤が言った
「そうね、聞いてみようかしら、でも、今の私は困り人かしら……」
桃が言った。
一週間後、考えに考えた末、桃は花畑に向かった。
そこにはのどかな春の陽射しの中、堂々と一輪の花が輝いていた。桃は目を閉じ、その花に向かって静かに頭を下げた。まず最初に、今までの感謝を述べた。そして、これからの自分の行く道を尋ねた。
すると、しばらくして耳元で波の音が聞こえてきた。驚いて目を開けると、桃はいつのまにか波が打ち寄せる浜辺に立っていた。見渡すと岸壁の先に白い灯台が目に入った。
(おばあさんが話してくれた光景だわ)
灯台の灯りが海を照らした瞬間、なんと海に道が出来た! そして、はるかかなたには花畑が…… 桃がその道を歩いていくと、花畑の中に老婆が立っていた。
「桃、久しぶりじゃのう。元気そうじゃな。
お前はほんにようやってくれた。もう十分じゃよ。
次の満月の晩、海を見においで。山はもう、たーんと見たでな」
そう言うと、老婆は笑顔とともに消えていき、桃は気を失った。
気がつくと、桃はいつもの花畑で倒れていた。
(私、夢を見ていたのかしら)
すぐそばでは、天国の花がまだきれいな花を咲かせていた。