2019年 09月 15日
暦 ―こよみ― 如月(三)卒業祝い <前編>
雪の予報が晴れに変わったこの日、由紀子と早紀子は、姉妹連れだって冬の街を歩いていた。北風が時おり吹き付けては枯れ葉が歩道を舞う。
由紀子はコートの裾から柔らかな色合いのスカートをのぞかせ、早紀子はパンツ姿にジャケットを羽織り、色鮮やかなブルーのマフラーをなびかせていた。ファッションだけでなく、顔だちもそれぞれの性格が表れているのか、姉妹なのに似ていなかった。
二人はウィンドウショッピングを楽しみ、実際に二、三の店で買い物をし、そろそろ昼食をとることにした。
イタリアンの店を見つけ中に入ると、その暖かな空間は二人をホッとさせた。昼を回っていたせいか店内は半分ほどが空席で、落ち着いて食事をとれそうだった。
メニューを見てそれぞれ好みのパスタ、由紀子は優しい味わいのカルボナーラ、早紀子はピリッと辛みの効いたペペロンチーノを注文した。食後に由紀子は紅茶、早紀子はコーヒーを頼んだ。どこまでも好みが違う自分たち姉妹が、由紀子は今さらながら可笑しかった。
「お姉さん、今日のこれは私の残念会?」
「そういうわけではないけど、たまには姉妹でデートもいいじゃない?」
「そんな気を使ってくれなくてもいいよ。私ね、本当は大学なんか行く気なかったんだ」
「え?」
「これ、落ちたからって強がりを言っているわけじゃないよ。本当にどっちでもよかったんだ。運よく受かればキャンパスライフを楽しむつもりだったけど、さすがに運だけで合格は無理よね」
「じゃ、他に何かしたいことでもあるの?」
食べ終わった頃合いを見計らい、店員が皿を下げに来た。
「私、ダンサーになろうかと思って」
「ダンサー!」
由紀子は驚きのあまり大きな声を出してしまい、皿に伸ばした店員の手が一瞬止まった。スミマセン、小声で会釈して、由紀子は話に戻った。
「何でまたダンサーなの?」
「私、体を動かすの得意でしょ? リズム感だって悪くないと思うのよ。だからダンススクールに通って、ダンサーを目指そうかと思うの」
「そんなわけのわからない世界、大丈夫?」
「若いうちにしかできないこと、いろいろやってみたいんだ。いずれはミュージカルに出て……な~んてそんな世界をちょっと覗いてみたい気がして」
「早紀ちゃん……」
「もちろんスターになんかなれると思っていないわよ。でも、スターに出会って玉の輿というくらいは望めるんじゃないかしら」
由紀子は呆れて何も言えなくなった。
「お父さんやお母さんは知っているの?」
「まさか! 言えるわけないじゃない、こんなこと」
「じゃ、どうするの?」
「バイトしながら、ちょっとダンススクールを探してみて決めたら話すわ」
「そうね、よく考えてからにした方がいいと思うわ」